新会社法の概要

(目次)
 第1 はじめに
 第2 主要な改正点
  1 総則(第1編)
  2 株式会社(第2編)
  (1) 設立関係(第1章)
  (2) 株式(第2章)
  (3) 新株予約権(第3章)
  (4) 機関(第4章)
    ア 機関構成
    イ 株主総会に関する事項
    ウ 取締役及び取締役会
    エ 会計参与
    オ 監査役
    カ 会計監査人
    キ 委員会設置会社
  (5) 計算等(第5章)
  (6) 事業の譲渡等(第7章)
  (7) 解散(第8章)・清算(第9章)
  3 持分会社(第3編)
  4 社債(第4編)
  5 組織変更,合併,会社分割,株式交換及び株式移転(第5編)
  6 外国会社(第6編)
  7 雑則(第7編)
 第3 経過措置



第1 はじめに

 平成17年6月29日,第162回国会において,「会社法」が「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(以下「整備法」といいます。)とともに成立しました。会社法は,現行の商法第2編,有限会社法,株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(以下「商法特例法」といいます。)等,会社法制に関する重要な規定が散在していた各規定について,片仮名文語体で表記されているものを利用者に利用し易く,分かり易くするため平仮名口語体化等を行い,1つの法典として再編成し,会社に関する諸法制度の規律の不均衡を是正するとともに,最近の社会経済情勢の変化に対応するため,会社法制に関する様々な制度につき見直しを行うものです。全8編からなる会社に係る大系的な法典となっています。平成18年5月1日から施行されます。ただし,いわゆる合併等対価の柔軟化に関する部分については,その1年後に施行することとされています(会社法附則4項)。


第2 主要な改正点

1 総則(第1編)

ア 第1編の総則関係では,第1章において,法律の趣旨,用語の定義,会社の法人格,会社の住所及び商行為性に係る規定が,第2章において,会社の商号に関する規定が,第3章において,会社の支配人その他の使用人等に関する規定が設けられています。
イ @類似商号に関する登記制限(商法19条,商業登記法27条)を廃止することとしました。ただし,会社の目的いかんにかかわらず,同一商号,同一住所の会社が複数存在することを認めるのは適当ではなく,そのような登記はできないことが明文化されました(新商業登記法27条)。 A事業譲渡(会社法においては,「営業」という語を「事業」という語に置き換えています。)をした場合の競業の禁止義務についての制限の見直しを行っています(会社法(以下,単に「会」といいます。)21条2項)。


2 株式会社(第2編)

  第2編では,現行の株式会社・有限会社を統合した新たな会社類型としての株式会社に関する規定が設けられています。
  新たな類型の簡素な機関設計としての株式会社を認め,定款自治による柔軟性を大幅に認めた結果,例えば,機関設計の点については株主総会と取締役のみの会社が,株券については株券を発行しない会社が,それぞれ原則的な形態の会社と位置付けられました。また,株式譲渡制限株式会社(その発行する株式の全部が譲渡制限株式である会社,以下「非公開会社」といいます。)とそれ以外の株式会社(その発行する株式の全部又は一部が譲渡制限株式ではない会社,以下「公開会社」といいます。)とを区分けし,後者をいわば伝統的な株式会社の理念型として位置付け,前者との間で規律の内容を大幅に異ならせています。なお,有限会社法は廃止され,既存の有限会社は,会社法施行後は,特段の手続を要することなく,会社法の規定に基づく株式会社として存続することになります。このような既存の有限会社(特例有限会社)に関しては,整備法で,取締役の任期規制がないこと(整備法18条),決算公告義務がないこと(整備法28条)等,現行の有限会社法に特有の規律の実質が基本的に維持されるとともに,その商号については「有限会社」の文字を用いるべきこととする等の措置が講じられています(整備法3条1項)。なお,特例有限会社が通常の株式会社に移行するためには,@商号を「株式会社」の文字を用いたものに変更するための定款変更の株主総会決議,A登記手続(特例有限会社についての解散登記及び株式会社についての設立登記の手続)が必要です(整備法45条,46条)。

(1) 設立関係(第1章)
  @株式会社の設立手続については,設立時の出資額規制(最低資本金制度)を撤廃し,出資額を1円とすることも可能とし,その設立を容易にしました。 A設立時の定款記載事項として,商法では,「会社の設立に際して発行する株式の総数」が絶対的記載事項となっていましたが,会社法では,「会社の設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」を定款の絶対的記載事項とし(会27条4号),募集設立で払込みが行われずに失権した引受権が生じた場合であっても,定款に定めた額以上の出資が行われていれば設立することが可能とされました。 B同様に絶対的記載事項の「会社が発行する株式総数」(発行可能株式総数)ついては,原始定款に定めていない場合には,設立前までに発起人全員又は創立総会の決議で定款を変更して定めを設けるべきものとされましたが(会37条,98条),法律関係の早期確定を考えると,原始定款に記載することが望ましいと思われます。 C現行法では,定款に必ず公告の方法を記載しなければなりませんでしたが(絶対記載事項),会社法では,公告の方法の記載を欠いた場合には,官報がその方法になるものとされました(会939条1項,4項)。 D設立時の役員(設立時取締役,設立時会計参与,設立時監査役といいます。)及び会計監査人については,発起設立の場合には,出資の履行が完了した後遅滞なく,発起人の議決権の過半数で選任されますが,予め定款で取締役等を定めている場合は,出資の履行が完了した時に選任されたものとみなされます(会38条)。従来から実務上,原始定款で設立時の取締役等を定める方法が広く採られていましたが,会社法はこれを明確に認めたことになります。 E発起設立の場合における払込金保管証明制度を撤廃し,例えば,銀行口座の残高証明等の任意の方法により,設立に際して払い込まれた金額を証明することができることとされました(新商業登記法47条2項5号)。なお,募集設立においては,現行と同様に払込金保管証明制度は維持されています。 F現物出資・財産引受けに際し,資本に対する割合の要件を廃止し,500万円以下の財産については検査役の調査を不要とし(会33条10項1号),また,市場価格のある有価証券についても市場価格を超えない場合には検査役の調査は不要とされました(同項2号,会社法施行規則6条)。 G設立時の取締役及び発起人の現物出資等の際の価格てん補につき,発起設立の場合は過失責任に改めました(会52条2項)。なお,募集設立の場合は,従前どおり無過失責任です。 H事後設立の際の検査役の調査に関する規定が廃止されました。

(2) 株式(第2章)
  株式に関しては,譲渡制限制度,種類株式,株主名簿,基準日,自己株式,単元株,端株,募集株式の発行,株券,少数株主権,株式買取請求権等について改正がされています。
(ア)株式の譲渡制限制度の柔軟化
  @株式譲渡制限については,定款の定めにより,株式の種類ごとに譲渡制限を付けることができ(会108条1項4号),譲渡による取得を承認する機関として,原則として,取締役会設置会社では取締役会,それ以外の会社では株主総会ですが,定款の定めにより,承認機関を代表取締役とすることができ(会139条1項),また,一定の場合,例えば株主間の譲渡については,承認を要しないものとすることもできます。譲渡を承認しない場合に,株式を譲渡する相手方を,定款で予め指定しておくことができ(会140条5項),また,相続,合併等の一般承継により株式を取得した者に対し株式会社がその株式の売り渡しを請求することを,定款で定めることができることとされました(会174条から177条)。 A譲渡制限種類株式の発行手続(会199条から202条)や種類株式に譲渡制限を付す手続に関する規定(会111条2項,116条,118条,324条3項)が整備されました。
(イ)種類株式等
  株式制度全般につき,より利用し易く,且つ多様な内容の株式を発行できるようにするため,種類株式の類型と区分基準につき整備されました。
  @種類株式を一層多様化し,その発行に当たっては発行可能種類株式総数等を定款で定めることとされました(会108条)。 A種類株式を発行できる議決権制限株式の発行限度につき,公開会社においてはその発行限度(発行済株式総数の2分の1)を超えた場合の規定を整備し,非公開会社においては発行限度を撤廃することとされました(会115条)。 B現行の転換株式・償還株式等を「取得請求権付株式」(株主が株式会社に対して株式の取得を請求することができる株式,会2条18号,108条1項5号)・「取得条項付株式」(株式会社が,株主の同意なしに,一定の事由が生じたことを条件として株主の有する株式を取得することができる株式,会2条19号,法108条1項6号)として規定を整備することとされました。 C普通株式に事後的に取得条項を付ける際の定款変更の要件(当該普通株式に係る株主全員の同意)を明らかにし(会110条,111条1項),「全部取得条項付種類株式」(2以上の種類株式を発行している会社が,ある種の株式について会社が株主総会の特別決議によってその全部を取得する定めのある株式。会171条1項,108条1項7号,309条2項3号)を創設することとされました。 D非公開会社につき,現行の有限会社に準じて剰余金の配当等に係る株主ごとの異なる定めをすることができることとされました(会109条2項)。
(ウ) 株主名簿
   名義書換につき,その請求手続を明文化する等し(会133条等,会社法施行規則22条),また閲覧請求につき,一定の場合に閲覧を拒絶できる事由を規定することとしました(会125条3項)。
(エ) 基準日
   議決権に係る基準日については,基準日後に株式を取得した者の全部又は一部を議決権を行使することができる者と定めることができるものとするほか(法124条4項),日割配当を廃止し,配当に係る基準日における株主は,その株式の発行時期の如何にかかわらず同一の配当を受けることとされました(法454条3項)。
(オ) 自己株式
   @自益権が認められない旨を規定上明らかにしました(会186条2項,202条2項等)。 A自己株式取得に関し,その取得事由,取得手続,取得の財務的要件等を整備し(会156条〜165条,461条),株式の消却について,株式の取得及び自己株式の消却という方法に限ることとされました(会178条)。
(カ) 単元株・端株
   現行の単元未満株式に係る株主の権利を原則としつつ,単元未満株式につき,定款をもって,現行法上端株主に加えることができる制限(改正前商法220条の3)と同様の制限を加えることができることとした(会189条2項)上で,端株制度を廃止することにしました(整備法86条,88条)。単元未満株主は,株主総会で議決権を行使することができず(会189条1項),定款の定めにより配当請求権等が制限されます。
(キ) 募集株式の発行等
   @非公開会社における有利発行手続と第三者割当の手続を一体化し,別々に株主総会の特別決議を経ることを不要とし(会199条,200条),新株引受制度を整理しました。 A株式の募集に当たり,払込期日に代えて払込期間を定めることができ,払込期間中に払込をした者は払込をした日から株主となることとされました(会199条1項4号,200条)。 B募集株式の発行等において株主に株式の割当てを受ける権利を与えることができるものとし(会202条),株主に無償で新株予約権の割当てをすることができるものとされました(会277条)。
(ク) 株券
   @株式会社においては,株券は発行しないことを原則とし,定款に株券を発行する旨の定めのある株式会社のみが株券を発行しなければならないとされました(会214条)。そして,非公開会社においては,上記定款の定めがあっても,株主からの請求がある時まで株券の発行をしないことができるものとされています(会215条4項)。株券発行会社の株主は,株券の所持を希望しない旨申し出ることができることは従前と同様です(株券不所持制度)(会217条1項)。 A既存の株式会社は,株券不発行会社としていない限り,整備法により,定款に株券を発行する旨の定めがあるものとみなされます(整備法76条4項)。 B株券喪失登録制度につき,期間満了時における効果を見直し,登録株券を無効とし,その再発行を認めることのみとし(会228条),株券喪失登録者が名義人でない場合に名義書換したものとみなすこと(改正前商法230条ノ6第2項),株券喪失登録期間中に株式の分割等が行われた場合に,新株券等の交付を受けることができること(改正前商法230条ノ8第4項・6項)という制度は廃止されます。
(ケ) 少数株主権等
   @少数株主権を,具体的な議決権の有無にかかわらず株主であれば当然認められるべきものと,そうでないものとに区分し,前者の帳簿閲覧請求権(会358条),業務の執行に関する検査役選任請求権(会423条),解散請求権(会832条),取締役等の解任請求権(会854条)については,行使要件の基準として議決権基準に加えて株式数基準を導入し,他方,後者の株主総会に関連する少数株主権及び単独株主権については,当該株主が議決権を行使することができる事項に係る権利につきその行使を保障し,当該株主が議決権を行使することができない事項に係る権利についてはその権利を行使できないものとされました(会297条,303条,306条,310条7項)。 A非公開会社においては,少数株主権・単独株主権における6か月の保有期間制限は課さないものとされました(会297条2項,303条3項等)。
(コ) 株式買取請求権
  買取請求権を行使できる株主の範囲を拡大し,その買取価格を「公正な価格」とし(会116条1項等),買取に係る協議が整わない場合には,会社も裁判所に対し価格決定の請求をすることができるものとし(会117条2項),買取請求の撤回は会社の同意を要するものとされました(会116条6項)。

(3) 新株予約権(第3章)
   @新株予約権の発行手続につき新株発行手続と同様の整備がなされた(会238条から248条)ほか,新株予約権は,有償で発行されるときも,割当当時から,新株予約権としての規制を受けることとされました(会245条,246条)。 A自己新株予約権の行使は禁止されました(会280条6項)。 B新株予約権が発行されている場合において,譲渡制限の定めを設ける定款の変更をする等の場合には,当該株式を目的とする新株予約権者に対し,新株予約権買取請求権を付与することとし,新株予約者の利益を保護することとされました(会118条)。 C当該株式会社による新株予約権の取得及び消却に係る規定が整備されました(会276条)。

(4) 機関(第4章)
ア 機関構成
(ア) 現行の株式会社と有限会社との両会社を統合することにより,有限会社の機関設計に類する簡素な機関設計の選択も可能にするなど,規律の大幅な柔軟化を図り,所定の原則の下で会社が自由に機関設計を行うことができることとし,株式会社の必要機関を「株主総会」と「取締役」とし(法295条,326条1項),それ以外の機関は,原則として,任意機関とすることとされました。
(イ) 公開会社である大会社については,選択しうる機関設計に変更はありませんが,その余の株式会社については,公開会社であるか否か,会社の規模(大会社か否か)に応じ,現行法よりも選択することができる機関設計が大幅に増えることになります。
機関設計のルールは次のとおりです(会計参与は,定款で設置する旨定めることができますが,設置を義務付けられることはありません。)。
  @すべての株式会社は,株主総会のほか,取締役を置かなければならない(会326条1項)。 A公開会社には,取締役会を設置しなければならない(会327条1項)。B取締役会を設置する場合は,監査役(監査役会を含む。)又は委員会のいずれかを設置しなければならない(会327条1項,2項本文)。ただし,大会社以外の非公開株式会社において,会計参与を設置する場合はこの限りではない(同条2項ただし書き)。 C監査役と三委員会をともに設置することはできない(会327条4項)。D取締役会を設置しない場合には,監査役会及び三委員会を設置することはできない(会327条1項)。 E会計監査人を設置するには,監査役(監査役会を含む。)又は三委員会(大会社であって公開会社にあっては,監査役会又は三委員会)のいずれかを設置しなければならない(会327条3項,5項)。 F会計監査人を設置しない場合には,三委員会を設置できない(会327条5項)。 G大会社には,会計監査人を設置しなければならない(会328条2項)。

イ 株主総会に関する事項
(ア) 株主総会の招集手続等
   @株主総会は,取締役会非設置会社においては,従前の有限会社と同様に,会社法に規定する事項及び株式会社の組織,運営,管理その他株式会社に関する一切の事項につき決議することができ(会295条1項),取締役会設置会社においては,会社法に規定する事項及び定款で定めた事項に限り,決議することができます(会295条2項)。 A株主総会の招集通知に関しては,会日の2週間前までに,各株主に通知することを要し(会299条1項),当該会社が書面投票・電子投票制度を定めているとき又は取締役会設置会社の場合は,書面又は電磁的方法で通知を発することを要します(同条2項,3項)。非公開会社の場合は,書面投票・電子投票制度を定めているときは,2週間前,そうでないときは1週間前,非公開会社で取締役会非設置会社では,定款で更に短縮することができます(同条1項)。また,議決権を行使できるすべての株主の同意があるときは,書面投票・電子投票制度を定めている場合を除き,招集手続を省略することができます(会300条)。 B株主総会の招集地に係る規制(改正前商法233条)は撤廃されました。 C少数株主による議題提案権等の行使期限及び株主総会招集権の行使時期につき定款をもって短縮することができることが明確化されました(会297条4項2号,303条2項,305条1項)。
(イ) 議決権の行使方法
   @議決権を有する株主数が1000人以上の株式会社については書面投票制度が義務付けられました(会298条2項)。 A電磁的方法による議決権行使を引き続き採用しました(会298条1項4号)。 B取締役会設置会社においては,議決権を統一しないで行使するときは,株主総会の日の3日前までに統一しないで行使する旨及びその理由を通知しなければなりませんが,取締役会非設置会社においては,従前の有限会社と同様に,議決権の不統一行使について事前の通知が不要とされました(会313条2項参照)。 C従前どおり,株主は代理人により議決権の行使することができます(会310条)。また,定款で代理人の資格を株主に限定する定めは許されると解されます。
(ウ) 議決要件
  普通決議,特別決議,特殊決議の要件は,原則として,従前と同様ですが,特別決議・特殊決議については,それらの要件を加重し,又はそれらの要件に加えて「一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件」を定款で定めることができることとされました(会309条1項ないし3項)。また,非公開会社においては,剰余金,議決権等に関し,定款をもって別段の定めを置くことができますが(会109条2項),当該定款の定めの新設又は変更のための株主総会の決議については,その決議要件を加重して,従前の有限会社の特別決議と同様の,総株主の半数以上で,かつ総株主の議決権の4分の3以上とされています(会309条4項)。
(エ) その他
   @少数株主だけでなく株式会社の側からも,総会検査役の選任を裁判所に請求することができることとされ(会306条1項),また,裁判所は,株主総会の招集に加え,全株主に対し,総会検査役の調査の結果を通知するように命ずることができることとされました(会307条1項2号,359条1項2号)。 A種類株主総会の決議を必要とする場合につき,会社法322条1項各号に整理したほか,前記規定以外にも,その必要な場合の規定を整備し明確にされました。

ウ 取締役及び取締役会
(ア) 取締役の員数及び資格
   @公開会社には,取締役会を置かなければならず,取締役会設置会社にあっては取締役は3人以上必要であり(会331条4項),非公開会社で取締役会を設置しない会社は,取締役は1人でもよいとされました(会326条)。 A法人が取締役になれないことを明らかにし(会331条1項1号),非公開会社においては,定款で取締役の資格を株主に制限することができることとされ,公開会社については,従前どおり,定款をもってしても取締役の資格を株主に限ることはできないとされています(同条2項)。また,「破産手続開始決定を受け復権していない者」を取締役の欠格事由から除外し,欠格事由のとなる犯歴に,証券取引法違反や各種倒産犯罪の罪を加えることとされました(同条1項3号)。
(イ) 取締役の任期
    委員会設置会社以外の会社の取締役の任期は,原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の時までとし,非公開会社については,定款に定めることにより,最長選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができることとされました(会332条1項,2項)。なお,委員会設置会社の取締役の任期は従前どおり1年です(同条3項)。最初の取締役の任期は1年を超えることができない旨の規定は廃止されました。
(ウ) 取締役の選任及び解任方法
   @取締役の選任・解任決議に係る株主総会の定足数につき,総株主の有する議決権の3分の1未満にすることができない旨規定するとともに,解任要件を原則として株主総会の普通決議に緩和した上で,定款の定めによる加重が可能である旨規定されました(会339条,341条)。 A累積投票による選任ができることは,従前どおりです(会341条,342条)。なお,累積投票制度によって選任された取締役については,解任決議をするには従前と同様に特別決議が必要とされています(会342条3項ないし5項,309条2項7号)。 Bそのほか,取締役等の欠員に備え補欠の取締役等を選任できる旨が明らかにされました(会329条2項)。
(エ) 取締役会
   @取締役会設置会社のうち,業務監査権限を有する監査役の存在する会社でなく,委員会設置会社でもない会社については,取締役の行為を監督するため,株主が取締役会の招集を請求することができることとされました(会367条)。 Aまた,取締役会の決議につき,従前は書面による決議は認められていませんでしたが,定款の定めにより,決議事項につき各取締役が同意し,かつ,業務監査権限を有する監査役が設置されている場合にあって各監査役が特に意見を述べることがないときは,書面・電磁的方法により決議できることとされました(会370条)。 B取締役会への報告につき全取締役への通知をもって代えることができるものとされました(会372条)。 C重要財産委員会制度(商法特例法1条ノ3ないし1条ノ5)を廃止し,取締役会の決議要件の特則として,重要な財産の処分・譲受け,多額の借財について,予め選定した3人以上の特別取締役で構成し,決議することができる特別取締役会制度を設けることとされました(会373条)。 D取締役会の招集権者,招集手続に関しては,従前と同様の規定が設けられています(会366条,368条)。
(オ)その他
   @大会社につき,いわゆる内部統制システムの整備に係る事項の決定を義務付けることとされました(会348条4項,362条5項,416条2項)。 A違法配当に係る責任・利益供与に係る責任(直接供与者の責任を除く。),利益相反取引等に係る責任(自己のために直接に利益相反した者の責任を除く。)の過失責任化が図られました(会462条,120条4項,423条,428条)。 Bまた,競業取引及び利益相反取引の承認手続きについては,取締役会設置会社では取締役会の,取締役会非設置会社では株主総会の普通決議による承認を必要とすることとし(会356条,365条),取引に関与した取締役の責任について見直しがされました(会425条から428条)。 C介入権(改正前商法264条3項,旧有限会社法29条3項)は廃止されました。 D委員会設置会社においては,取締役が使用人を兼務することができない旨を明確にし(会331条3項),使用人兼執行役の使用人分の給与等についても報酬委員会において決定すべきものとされました(会409条3項)。

エ 会計参与
  @会計参与は,会社法により新設された任意機関であり,定款の定めにより,どのような類型の会社においてもこれを設置することができますが(会326条2項),主として中小規模の株式会社における計算書類等の正確さの確保に資するためのものです。主たる職務・権限は,計算書類等の取締役等との共同作成(会374条1項,6項),会計参与報告の作成(会374条1項,会社法施行規則102条),株主総会における計算書類の説明義務(会314条、会社法施行規則71条),取締役の不正行為を発見したときは遅滞なく株主等に報告する義務(会375条)等です。 Aその選任,任期,報酬等については取締役等と同様の規律に従うものとされ(会329条,334条1項,332条,379条),責任については社外取締役と同様の規律となります(会425条1項1号ハ,427条1項)。

オ 監査役
  @監査役は,任意機関であり,定款の定めによりこれを置くことができます(会326条2項)。ただし,委員会設置会社を除く取締役会設置会社又は会計監査人設置会社においては,監査役の設置が義務付けられています(会327条2項本文,3項)。 A監査役の員数は,監査役会設置会社を除き制限はなく,監査役会設置会社においては,3人以上で,そのうち半数以上は社外監査役でなければなりません(会335条3項)。 B監査役の資格については取締役の資格の規定が準用され,公開会社においては,株主でなければならない旨定めることはできません(会335条1項,331条1項,2項)。 C監査役の任期は,原則として,選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終の定時総会の終結の時までですが,非公開会社では,定款により,選任後10年以内に終了する事業年度のうちの最終の定時総会の終結の時まで伸長することができます(会336条1項,2項)。 D監査役は,会社の規模を問わず,会計監査権限のみではなく,業務監査権限を有するのが原則ですが(会381条),非公開会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く。)においては,定款により監査の範囲を会計に限定することができます(会389条)。

カ 会計監査人
  @会計監査人は,定款の定めにより設置することができますが(会326条2項),委員会設置会社,大会社では,設置が義務付けられています(会327条5項,328条)。 A株主総会の決議によって選任され,員数は法定されていません。 B会計監査人は,公認会計士又は監査法人でなければならず(会337条1項),公認会計士法の規定による処分により会社の計算書類について監査できない者は欠格事由とされています(同条3項1号)。 C報酬等は会社が定めますが,取締役は,報酬等を定める場合には,会計監査人の独立性を確保するため,監査役(会)(委員会設置会社では監査委員会)の同意が必要です(会399条)。 D株主代表訴訟の対象とされ(会847条1項,423条1項),その免除につき一部免除制度の導入も含め規定が整備されました(会424条)。

キ 委員会設置会社
  @大会社だけではなく,規模にかかわらず,すべての株式会社が委員会設置会社になることができます(会326条2項)。 A委員会設置会社の取締役は当該会社の支配人その他の使用人を兼ねることを禁止することとし(会331条3項),報酬委員会が,使用人兼執行役の使用人として受ける給与等についても決定できることとされました(会404条3項後段)。 B取締役又は執行役の責任につき,株主の権利行使に関し財産上の権利を行使した場合の責任を,直接供与した者を除き,過失責任とされました(会120条4項)。

(5) 計算等(第5章)
   @計算書類等の監査役への提出時期を定めた,定時総会の開催時期に係る規制(改正前商法281条の2,商法特例法12条,21条の27,23条等)を廃止し,決算公告については,有価証券報告書提出会社を除く全株式会社にこれを義務付けられました(会440条)。 A事業年度ごとに行う通常の決算制度のほかに,期中の特定日までの財産及び損益を反映した貸借対照表及び損益計算書を作成する臨時決算制度を設けることとされました(会441条)。これにより,現行法上,年2回に制限されている剰余金の配当につき,いつでも,年に何回でも利益配当することができ(会453条,454条1項),より柔軟に株主に対して利益を還元できるようになりました。 B委員会設置会社以外の株式会社であっても,一定の要件を充たす場合は,定款の定めにより取締役会の決議によって通常の配当ができることとされました(会459条)。なお,中間配当については,取締役会設置会社であれば,定款の定めにより年1回に限り,取締役会の決議により行うことができるものとされました(会454条5項)。 C株主に対する会社財産の払戻し行為(現行の利益の配当,中間配当,資本又は準備金の減少に伴う払戻し,自己株式の有償取得等)を剰余金の分配として整理し,統一的な財源規制を設けました(法461条)。また,剰余金の配当については,純資産額が300万円未満の場合には株主に配当できないものとされました(会458条)。 D違法配当に係る取締役等の責任の過失責任化を図り(会462条),期末のてん補責任につき規定が整備されました(会465条1項)。 E会計帳簿の閲覧又は謄写が請求できる者を,現行においては,「総株主の議決権の百分の三以上の議決権を有する株主」と規定(改正前商法293条ノ6第1項)されていますが,これ以外に「発行済株式の百分の三以上の数の株式を有する株主」もできる旨規定されました(会433条1項)。

(6) 事業の譲渡等(第7章)
   @事業の重要な一部の譲渡については,譲渡に係る資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産に占める割合の20パーセント以下の場合には,株主総会の決議を不要とし(会467条1項2号),他会社の事業の全部の譲受けについては,交付に係る財産の帳簿価額の合計額が当該株式会社の純資産額に対する割合の20パーセント以下の場合には,株主総会の決議は不要とされました(会468条2項)。また,事業の全部若しくは重要な一部の譲渡又は事業の全部の譲受け等に係る契約の相手方が当該事業の譲渡等をする株式会社を支配している関係にある場合には,当該株式会社の株主総会の決議は不要とされました(同条1項)。 A新設合併,新設分割又は株式移転により設立された会社について,事後設立規制が課せられないことが明確化されました(会467条1項5号)。なお,事後設立における検査役の調査制度(改正前商法246条2項)が廃止されました。

(7) 解散(第8章)・清算(第9章)
  @休眠会社の整理に係る期間が5年から12年に延長されました(会472条)。 A通常の清算手続への裁判所の関与につき,清算手続は裁判所の監督に服する旨の規定(非訟事件手続法136条ノ2)が削除され,清算人の氏名等の裁判所への届出等の制度が廃止されるほか,清算中の会社の機関につき,清算人会の任意機関化(会477条2項)等,清算中の株式会社における機関の在り方の合理化・明確化が図られました。 B債権申出の公告を1回で足りるものとする(会499条1項)等,清算中の会社における債務の弁済に係る規定の整備等の改正がなされました。


3 持分会社(第3編)

(ア) 第3編には,持分会社に関する規定が置かれています。持分会社とは,合名会社,合資会社及び新たに創設される会社類型である合同会社の総称です。
(イ) 持分会社を設立するには,定款を作成することを要しますが,公証人の認証を受ける必要はありません。社員は法人でもよく(会598条),社員が1人になっても解散することにはなりません(会641条参照)(一人会社の許容)。また,法人無限責任社員を許容する(会576条1項4号,598条)こととされました。
(ウ) 合同会社は,今回の改正で認められた会社類型で,出資者全員が有限責任社員であり,内部関係については,各社員が自ら会社業務の執行に当たる等民法上の組合と同様の規律が適用される会社です。これらの特徴を確保する規律として,合同会社につき,債権者による計算書類の閲覧,資本金の減少,利益の配当,出資の払戻し,社員の退社に伴う持分の払戻し等,計算の特則規定が設けられています(会625条から636条)。


4 社債(第4編)

(ア) 第4編には,社債に関する事項が規定されています。改正前商法では,社債に関する規定は第2編第4章(株式会社)中の第5節に置かれていましたが,会社法では,株式会社のほか,持分会社においても社債を発行することが明確化された結果,社債について独立の編が設けられ,すべての会社類型に適用されるものとして整理されています(会676条)。
(イ) @社債券の不発行制度を創設し(会676条6号参照),社債の譲渡の効力要件,対抗要件等に係る規定の整備を行い(会687条から689条),社債管理会社(会社法では「社債管理者」と名称が変更されました。)の責任,辞任,権限等につき規定の整備が行われています(会740条2項,704条,706条1項,710条,711条)。 A社債債権者集会において,法定決議事項以外の事項を決議しようとする場合における裁判所の事前許可の制度の廃止(会716条),社債権者集会における特別決議の成立要件の緩和(会724条2項),無記名式社債券の供託の制度に代わる制度の創設(会723条3項)の規定の整備が行われました。


5 組織変更,合併,会社分割,株式交換及び株式移転(第5編)

(ア) 第5編には,組織再編行為等に関する事項が規定されています。
(イ) @株式会社から持分会社への組織変更,持分会社から株式会社への組織変更を認め,その場合の手続規定が整備されました(会743条から747条,2条26号)。なお,持分会社の種類の変更は定款変更により認められます(会638条)。 A合併等対価の柔軟化,すなわち,吸収等の合併の場合において,消滅会社の株主等に対して存続会社等の株式ではなく金銭その他の財産を交付することが認められました(会749条1項2号,751条1項3号,758条4号,760条5号,768条1項2号,770条1項3号)(附則4項に注意)。 B合併等における株式買取請求権が行使された場合の買取を「公正な価格」によることとするほか,買取請求権の行使権者,買取請求権の行使期間等の整備が行われました(会785条等)


6 外国会社(第6編)

  外国会社(会2条2号)の日本における代表者につき,そのうち少なくとも1名は日本に住所を有することが必要ですが,そのすべてが日本に住所を有することは要しないものとされました(会817条1項後段)。


7 雑則(第7編)

(ア) 第7編には,会社の解散命令,訴訟,非訟,登記,公告に関する規定が設けられています。
(イ) @第2章の訴訟には,会社法上の訴訟に関する規定がまとめて整理され,新株発行無効の訴え等につき,非公開会社においては提訴期間を1年に延長し(会828条1項2号),提訴期間中は口頭弁論を開始することができないとする規定(改正前商法280条ノ16,105条2項)は廃止されました。 A各種訴えの原告適格に係る規定を整備し(会828条2項),また,会社の組織に関する訴えにつき被告を明示した規定が設けられました(会834条)。 B株主代表訴訟につき,株主が提訴できない場合に関する明文規定(会847条1項)及び提訴請求を受けた会社が提訴しない場合の不提訴理由の通知制度を設け(会847条4項),さらに,訴訟係属中に株式交換・株式移転が行われても一定の場合には原告がその適格を喪失しないこととする(会851条)等の合理化が図られました。
(ウ) 第4章の登記では,会社の登記義務,登記事項等に係る規定が設けられており,共同代表取締役等の登記(改正前商法188条2項9号等)を廃止し,社外取締役等については,原則として登記事項から削除し,一定の場合のみ登記すべきこととする(会911条3項21号・22号・25号)等の改正が行われているほか,支店の所在地における登記の位置付けが見直され,その登記事項の限定等(会918条,930条2項)が行われています。
(エ) 第5章の公告では,公告の方法が定款の任意的記載事項とされ,その定めがないときには官報がその方法となる旨の改正が行われています(会939条1項・4項)。


第3 経過措置

1 会社法の施行に伴い,整備法により,有限会社法をはじめ計9本の法律が廃止されるほか,商法をはじめとする関連する諸法律の規定の整備等が行われています。これにより,商法(明治32年法律第48号)については,第1編(総則)は,個人商人についての規定と整理され,規定を現代的な表記に改められ,第2編(会社)は,全部削除され,第3編(商行為)のうち,第501条から第542条までの規定は現代的な表記に改められました。
(1)ア 会社法施行時に既に設立されている有限会社は,会社法施行後は,定款の変更や登記申請等の特段の手続を要することなく,会社法上の株式会社として存続します(整備法2条1項)。そして,有限会社法に特有の規律について会社法の特則として整備法に規定され(整備法2条から44条),会社法施行前に設立された有限会社については,会社法施行後も有限会社法の規律の実質が維持されることとされるとともに,商号については「有限会社」の文字を用いるべきものとされております(整備法3条1項)。このため,整備法においては,上記の特則の適用がある旧有限会社を「特例有限会社」と呼ぶことにしています(整備法3条2項)。
イ 特例有限会社は,取締役及び監査役以外の機関の設置は認められず(整備法17条1項・2項),取締役及び監査役の任期はいずれも,従前どおり制限はありません。資格については,取締役及び監査役ともに,従前の欠格事由の他,会社法331条1項3号において規定された,証券取引法,民事再生法,外国倒産処理手続の承認援助に関する法律,会社更生法又は破産法違反の罪も欠格事由に付加されました。また,各取締役が業務執行権及び代表権を有し,監査役については,監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の規定があるものとみなされています(整備法24条)
ウ 特例有限会社が通常の株式会社に移行するためには,定款を変更して,その商号を株式会社という文字を用いた商号に変更し(整備法45条1項),定款変更決議から,本店の所在地においては2週間以内,支店の所在地においては3週間以内に,@当該有限会社についての解散の登記,A商号変更後の株式会社についての設立の登記をする必要があります(同条2項)。
(2)ア 改正前商法上の株式会社については,商法特例法上の大会社,みなし大会社,小会社及び委員会設置会社については定款のみなし規定があるほか(整備法52条,53条,57条),旧株式会社(改正前商法の規定による株式会社であって会社法施行の際現に存するもの)の定款における改正前商法166条1項各号(第6号を除く。)及び第168条1項各号に掲げる事項の記載又は記録は,これに相当する新株式会社(旧株式会社で会社法施行後に存続する株式会社)の定款における会社法27条各号(第4号を除く。)及び同法28条各号に掲げる事項並びに同法29条に規定する事項の記載又は記録とみなされ(整備法76条1項),@取締役会及び監査役を置く旨(委員会設置会社を除く。)(整備法76条2項),A株式譲渡制限会社である場合にあっては,その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該新株式会社の承認を要する旨の定め(同条3項),B定款に株券を発行しない旨の定めがない場合にあっては,その株式(種類株式発行会社にあっては,全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定め(同条4項),があるものとみなされます。また,取締役会設置会社である旨(整備法113条2項),監査役設置会社である旨(旧株式会社については委員会設置会社である旨の登記がある場合を除く。)(同条3項),株券発行会社である旨(旧株式会社について株券を発行しない旨の登記がある場合を除く。)(同条4項),の登記がされたものとみなされるため,これらの登記申請をする必要はありません。ただし,種類株式発行会社である場合には,その内容,種類ごとの数を登記する必要があります(同法113条5項)。
イ 合名会社,合資会社については,特段の定款変更や登記申請は不要です。
(3) 「新事業創出促進法」,「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」に基づき成立した確認会社において,定款で定められている解散事由の定め(設立後5年以内に増資等しない限り解散する旨の定め)については,取締役設置会社においては取締役会の決議で,非取締役会設置会社では取締役の過半数の決定により前記定めを廃止する定款変更をすることができ(整備法448条),定款変更をした確認株式会社は株式会社として,確認有限会社は特例有限会社として存続することになります。



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