公証事務
3遺産分割協議
土地の遺産分割協議
Q1. 土地の登記名義が何年も前に死亡したAのままになっており、Aの相続人である子らも死亡しており、その配偶者や子(Aの孫)など相当数の相続人がいます。このような場合、Aの遺産である土地の登記名義を相続人のうちの誰かに移転させるにはどうしたらいいでしょうか?
Aが遺言書を作成しその土地の相続人または受遺者を定めていれば、その遺言書に基づいて、その相続人名義に相続登記をし、その受遺者名義に移転登記をすることができます。しかし、遺言書が作成されていない場合は、Aの相続人の地位にある者の間で遺産分割協議を行い、Aの遺産である土地の所有権を単独または複数で取得(承継)する相続人を定め、その内容を書面にした上で、登記申請して当該相続人名義への相続登記をする必要があります。
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要であり、遺産分割協議が成立しないといつまでも遺産を分けられないことになりますので、相続が開始したらなるべく早い段階で遺産分割協議を始めましょう。そうしないまま遺産である土地を被相続人名義のまま長い間放置しておくと、その間に相続人も亡くなり、その子や孫、更にはそれらの配偶者がその土地の相続分を相続することになるので、遺産分割協議の当事者がねずみ算的に増えて合意形成が難しくなってしまうのでご注意ください。
なお、2024年(令和6年)4月1日から相続登記の義務化が開始され、不動産の相続をしてから3年以内に相続登記をする必要があります。
Q2. 遺産分割協議とは、どのようなものですか?
相続人は、被相続人が遺言で遺産分割を禁じている場合を除き、相続人全員の協議により遺産の分割をすることができます(民法907条)。このような遺産分割協議の成立により、各相続人は、遺産分割協議で定められた内容どおりに遺産を相続開始の時にさかのぼって取得(承継)することになります(民法909条)。そして、遺産がQ1のように土地である場合は、遺産分割協議により土地を取得(承継)することになった相続人が相続登記をすることになります。
Q1の例で説明しますと、遺言がないままAが亡くなり相続人が複数いるときは、Aの遺産である土地の所有権は相続人全員の遺産共有状態になるので、次の①または②のような手続をすることになります。
- 相続人それぞれが自己の法定相続分の割合に従って土地の共有持分を取得するという遺産分割協議を成立させれば、それぞれの法定相続分の割合により相続登記をすることができます。
もっとも、このような形で遺産分割協議を成立させて登記した場合でも、その相続人らが死亡すると更にその相続人らが土地の共有持分を相続することになり、土地の共有持分の細分化が進むことになるので,土地の管理・処分が極めて困難な状態になる可能性があります。 - 土地を取得する一人または複数の相続人を定める内容の遺産分割協議を成立させれば、その相続人名義への相続登記をすることができます。
Q3. 遺産分割協議以外に土地の登記名義を相続人のうちの誰かに移転させる手段はないのでしょうか?
遺産分割協議が最も一般的ですが、それ以外では相続分の譲渡という手段が考えられます。
相続人は、遺産分割前に自分の相続分を他の相続人または第三者に譲渡することができます。ここでいう相続分とは、消極財産も含めた包括的な遺産全体に対する割合的な持分をいい、譲渡の方法としては、有償譲渡や贈与があります。共同相続人間で相続分の譲渡がされた場合には、譲り渡した相続人は、遺産に対するすべての相続分を失うことになりますが、譲り受けた相続人は、自分の相続分と譲り受けた相続分とを合計した相続分を有することになります。そうすると、仮にAの相続人のうちの1人が他の相続人全員から相続分の譲渡を受けたとすれば、設問の土地を含むAの遺産を単独で相続することになります。
登記実務では、他の相続人全員から相続分の譲渡があった場合には、相続分を譲り受けた相続人の名義の登記にすることが可能とされています。
Q4. 遺産分割協議は相続人全員で行わなければならないということですが、そうすると、Q1のように、Aの相続人である子ら全員が死亡しており、それらの相続人である孫や配偶者が複数いる場合、全員が一堂に会して遺産分割協議を行わなければ、Aの遺産である土地を取得(承継)する相続人を定めることはできないということになりますか?
ご質問の定めをするには、相続人全員による遺産分割協議としての合意の成立が必要です。この合意をする方法としては、相続人全員が一堂に会して合意をする方法のほかに、合意する内容をいわゆる持ち回りの方法で相続人全員が確認・同意して合意をする方法や、下記のような段階的に遺産分割協議を行って合意をする方法も可能です。
Aの遺産である土地の相続人を定める遺産分割を行うのに、上記相続人全員が一堂に会して遺産分割協議を行わなければならないかというと、必ずしもそうではありません。
例えば、Aに3人の子(B、C、D)がいたとして、いずれもAが死亡した後に死亡していたとすると、それらの配偶者や子がB、C、Dの相続人となるので、B、C、Dが相続したAの相続分を相続することになります。このうち、Bの相続人たちだけで遺産分割協議を行い、BがAから相続した土地の相続分を取得(承継)する相続人をそのうちの一人であるEと定めれば、その土地に対するBの相続分の相続人はEのみとなります。同様にCの相続人の間で、さらにDの相続人の間で、それぞれ上記のように遺産分割協議を行い、CまたはDがAから相続した土地の相続分を取得(承継)する相続人を定めた上で、各相続分を取得(承継)したEら相続人の間で遺産分割協議を行い、Aの遺産である土地を取得(承継)する相続人を定めれば、結果的にAの相続人全員の遺産分割協議が成立したことになります。
Q5. 相続人の中に行方不明の者、認知症の者、未成年者がいる場合には、どのようになりますか?
遺産分割協議は、相続人全員による合意の成立が必要であり、全員の合意がなければ無効です。したがって、行方不明の相続人や認知症で意思表示をすることができない相続人を除外して行った遺産分割協議は、無効となります。また、遺産分割協議後に新たな相続人の存在が判明した場合(被相続人が認知した子の存在が分かった場合など)にも、成立した遺産分割協議は無効となります。
なお、相続人となるべき者が行方不明の場合には、家庭裁判所に不在者(行方不明の相続人)の財産管理人の選任を請求し(民法25条1項)、選任された財産管理人と他の共同相続人の間で遺産分割協議をすることができます。ただし、遺産分割は財産処分の要素があるため、不在者の財産管理人の権限の範囲を超えることになりますから、遺産分割協議の開始および遺産分割の実施について家庭裁判所の許可を受ける必要があります(民法28条)。
また、認知症で意思表示ができない相続人も、遺産分割協議から除外することはできません。この場合には、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立て、認知症の相続人に代わって意思表示をする「成年後見人」を選任してもらい(民法7条、8条)、選任された成年後見人と他の共同相続人の間で遺産分割協議をすることになります。
さらに、相続人が未成年者の場合、親権者である親が代理して法律行為を行うのが一般的ですが、親も相続人の一人として遺産分割協議に参加する場合には、親子の利害が対立するため、親が子を代理して遺産分割協議をすることはできません。家庭裁判所に未成年者に代わって意思表示をする「特別代理人」の選任を請求し(民法826条1項)、選任された特別代理人と他の共同相続人の間で遺産分割協議をすることになります。
Q6. 遺産分割協議が成立した場合には、何を作成すればよいでしょうか?
遺産分割協議が成立した場合には、相続人全員で「遺産分割協議書」を作成しましょう。
不動産登記申請や預貯金等の払戻し等の際には、通常、この遺産分割協議書が必要となります。遺産分割協議書は、協議に参加した相続人全員の合意書としても作成できますが、法律の専門家である公証人に作成を依頼することができ、その場合には、公証人が相続人間で成立した合意を記載した遺産分割協議公正証書を作成することになります。
Q7. 遺産分割協議書は、公証人に作成してもらうこともできるということですが、遺産分割協議公正証書を作成してもらうにはどのような書類を用意する必要がありますか?
下記の書類をご準備ください。
- 被相続人の死亡の事実が記載された除籍謄本
- 被相続人と各相続人との続柄が分かる書類(被相続人の改製原戸籍、改製原戸籍だけで判明しない場合は、各相続人の戸籍謄本等)
- 各相続人の本人確認のための書類
- 次の①または②のいずれか
- 印鑑登録証明書(発行後3か月以内のもの)+実印
- 運転免許証、マイナンバーカード等の顔写真付き公的身分証明書+実印または認印
- 不在者の財産管理人、成年後見人または特別代理人が遺産分割協議を行う場合には、その資格を証明する書類(家庭裁判所の審判書)
- 次の①または②のいずれか
- 不動産の相続の場合には、被相続人名義の不動産登記事項証明書および評価証明書または固定資産税納税通知書
- 預貯金等の相続の場合には、被相続人名義の預貯金通帳またはその通帳(銀行名・支店名・口座番号)のコピー
- その他の相続財産がある場合には、その明細が分かるもの
Q8. 遺産分割協議公正証書の作成手数料は、いくらになりますか?
遺産分割協議公正証書の作成手数料は、遺産分割協議により取得(承継)する財産の価額を目的価額として計算します。遺産分割協議の成立により、各相続人は、遺産分割協議で定められた遺産を相続開始の時にさかのぼって取得(承継)し、その権利移転の法律効果が生じますので、まず、相続人ごとにそれぞれ取得(承継)する財産の価額に基づく手数料額を計算し、その手数料額の合計額が遺産分割協議公正証書の作成手数料となります。
例えば、相続財産甲(価額6000万円)、乙(価額4000万円)、丙(価額3000万円)につき、相続人X・Y・Z(法定相続分は3分の1)の間で遺産分割協議をした結果、Xが甲を、Yが乙を、Zが丙を取得する旨の分割協議が成立した場合の遺産分割協議公正証書の手数料は、Xにつき4万3000円、Yにつき2万9000円、Zにつき2万3000円なので、その合計額の9万5000円となります。
Q9. 遺産分割協議を行ったものの、相続人間で合意が成立しなかった場合はどうしたらよいでしょうか?
遺産分割協議がどうしてもまとまらない場合には、家庭裁判所の調停や審判の手続によって遺産の帰属を定めるほかありません。