公証事務
7離婚
離婚の方法
Q1. 離婚の方法には、どのようなものがありますか?
主なものとしては、①当事者の協議による合意の上、離婚届を市町村長(特別区の区長等を含む。)に届け出る協議離婚、②家庭裁判所の調停手続により調停を成立させる調停離婚、③離婚しようとする者が離婚の訴えを家庭裁判所に提起し、確定判決を得る裁判離婚があります。
当事者間で離婚の合意ができないと、上記①から②・③へと手続が移っていきます。
協議離婚
Q2. 協議離婚は、どの時点で効力を生じるのですか?
戸籍法による届出(いわゆる離婚届です。)が受理されてはじめて効力を生じます。公正証書によって協議離婚の合意をした場合でも、裁判離婚等の場合と異なり、公正証書が作成されただけでは、離婚の効力は発生しません。
離婚給付等契約
Q3. 離婚に関する公正証書は、どのような条項から成り立っているのですか?
離婚に際して作成される公正証書は、離婚に伴う財産給付について記載されることが多いことから、「離婚給付等契約公正証書」といわれております。その主な内容は、①離婚の合意、②親権者と監護権者(監護権者とは、子の監護養育をする者で、親権と分離して別に監護者を定めない限り、親権者が当然監護養育すべきことになります。)の定め、③子供の養育費、④子供との面会交流、⑤離婚慰謝料、⑥離婚による財産分与、⑦住所変更等の通知義務、⑧清算条項、⑨強制執行認諾の各条項のうち、当事者の要望や必要性に応じてこれらの項目の中から選んで条項化します。
養育費
Q4. 養育費とは、何ですか?
未成熟な子(親の監護なしでは生活を保持し得ない子。未成年である場合が多いですが、成年の子であっても大学等に在学し扶養を要する状態にある場合も含まれると解されています。)を引き取って養育する親に対して、他方の親から子を養育する費用として給付されるのが養育費です。親は、未成熟の子に対して扶養義務を負っているからです。
なお、未成熟の子本人も、父母に対して扶養料の請求をすることができます。
Q5. 養育費の算定は、どのようにするのですか?
親は、子が親と同程度の生活ができるように費用を負担しなければなりません(生活保持義務)。ですから、養育費算定の考え方の基本としては、両親と子が同居していれば、子のための生活費がいくらかかるかを計算し、その金額を、養育費を支払う親と子を引き取って養育する親の収入の割合で按分し、養育費を支払う親が支払うべき養育費の額を決めるということになります。
現在、家庭裁判所の実務においては、養育費を簡易に計算する方法として「養育費・婚姻費用算定表」(出典:東京家庭裁判所ウェブサイト〔https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vc-files/tokyo-f/file/santeihyo.pdf〕)が用いられています。インターネット上で「養育費・婚姻費用算定表裁判所」でも検索できます。
Q6. 公証人は養育費の算定をしてくれますか?
それはありません。公正証書は、当事者の合意を記載して作成するものだからです。
Q7. 養育費の額や支払方法等は、変更できますか?
養育費は、その時々の子の生活を維持してゆくのが目的ですから、離婚後における親や子に関する事情が変わると、これに応じて、その額や支払の方法等を当事者間の協議で変更することができます。当事者間で協議が整わないときには、家庭裁判所に調停の申立てをすることができます。
Q8. それでは、養育費については、取決めの際に、一切は解決済みである旨の条項を加えておいても意味がないのですか?
そのようなことはありません。その時点における合意の趣旨を明らかにしておく意味はあります。ただ将来、事情の変動があっても給付についての変更を一切しないという効果まではないということです。
面会交流
Q9. 面会交流とは、例えば、どのような条項ですか?
例えば、「乙(親権を持つ方の親)は、甲(親権を持たない方の親)が丙(子)および丁(子)と面会交流することを認める。ただし、面会交流の具体的な日時、場所、方法等は、甲と乙が、丙および丁の福祉に十分配慮しながら協議して定めるものとする。」などです。
慰謝料
Q10. 離婚の慰謝料とは、どういうものですか?
離婚について責任のある側が、他方に支払う損害賠償金のことです。
Q11. 夫と妻の双方に責任があるときは、どうなるのですか?
離婚について主として責任のある方が、損害賠償の責任を負うことになると考えられます。
Q12. 慰謝料の額は、どのくらいですか?
慰謝料は、精神的苦痛に対する損害賠償ですから、離婚の原因、精神的な苦痛を受けた者の苦痛の程度、婚姻期間、資産収入、その他のあらゆる事情が考慮されるといってよく、いわゆる相場を見いだすことは難しいのが実情です。事案ごとに常識を持って適宜適切に判断するほかありません。
財産分与
Q13. 財産分与とは、どういうものですか?
婚姻中に夫婦の協力によって形成された夫婦共有財産の清算です。夫婦のいずれか一方の名義になっている財産であっても、実際には夫婦の協力によって形成されたものであれば、財産分与の対象となります。
Q14. 離婚後に一方が生活に困窮することが予想されるときに、これを支援する趣旨で他方が行う金銭等の給付は、何に当たるのですか?
それも財産分与に含まれます。
Q15. 財産分与には、慰謝料的な要素もあると聞きましたが、本当ですか?
そのとおりです。
Q16. 慰謝料と財産分与との関係は、どうなるのですか?
財産分与の中に慰謝料を含めて請求してもよいですし、財産分与と慰謝料とを分けて請求してもよいのです。
Q17. 住宅ローン付き不動産の分与については、何に注意したらよいですか?
婚姻中に住宅ローンにより夫名義で取得したマンション等の不動産(以下「自宅」といいます。)を、離婚に当たり、妻子の居住の必要等から妻に財産分与として譲渡する例が多いのですが、この場合を例にしてご説明します。
ローンの残額を夫がそのまま支払うという約束をした場合でも、約束どおりにローンの支払をしなくなったときは、妻としては、自らの負担でローンの支払をするか、それができなければ自宅を失う危険があります。
そこで、公証人が公正証書を作成する場合、このような妻側の不安を取り除くため、当事者からよく事情を聴いた上、公正証書に記載する契約条項をいろいろと考慮することになります。
ところで、ローン債権者(銀行)は、債務者が勝手に自宅の名義変更をすると、それを理由として、ローン債務の期限の利益(約束した支払期限まで完済することを猶予されるという利益)を喪失させる旨の約款(その時点で残債を一括返済しなければならなくなるということ。)を定めているのが通常です。その約款がある場合、自宅を財産分与で妻に譲渡して所有権移転登記をし、かつ、ローン残額の一括返済を避けるには、事前に銀行の承諾を得る必要があります。しかし、妻に資力があるというようなごく例外的な場合を除けば、銀行は承諾しないことが多いようです。
ですから、夫としては、離婚に伴い自宅の名義を妻に変更したくても、自宅の名義変更をすると銀行からローン残額の一括返済を迫られることになるので、それが事実上できない場合があるのです。しかし、妻への登記名義の変更がないと、夫が離婚後第三者に自宅を譲渡して登記名義を変更した場合、妻はその譲受人に自己の権利を主張できないことになります。このような場合の対策としては、夫から妻への所有権移転登記はローン債務の完済後にすることとし、離婚時には、夫から妻への所有権移転請求権保全の仮登記をつけておくことが考えられます。
以上は、一つの例にすぎませんが、住宅ローン付き不動産の財産分与については、いろいろ困難な問題が生じるおそれがありますので、公証人に相談するのがよいでしょう。
財産分与と税金
Q18. 財産分与を受けた側は、税金がかかるのですか?
財産分与または慰謝料として取得した財産には、原則として、贈与税も所得税も課税されません。ただし、財産分与した財産の額が、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合、その過当な部分、または離婚を手段として贈与税もしくは相続税のほ脱(いわゆる脱税)を図ると認められる場合の、その離婚で得た財産の額は、贈与によって取得した財産となり、贈与税の対象となります(相続税法基本通達9-8)。
なお、不動産を財産分与等で取得した者が所有権移転登記を行おうとする場合は、登録免許税および不動産取得税が課税されます。
Q19. 財産分与をした側は、どうですか?
財産分与は、資産を無償で譲渡するものですが、譲渡する資産の譲渡時の価格が取得時の価格を上回っているときは、分与する配偶者に対し、増加分について譲渡所得税が課せられます(ただし、特別控除の制度があります)。
これを知らないで財産分与の合意をしたときは、財産分与の合意が錯誤により取り消しになることもあり得ます(最高裁判決:平成元・9・14家裁月報41-11-75)。
財産分与と退職金
Q20. 将来支給される見込みの退職金も、財産分与の対象になりますか?
退職金は、給料とほぼ同視でき、夫婦の協力によって得られた財産とみることが可能なので、財産分与の対象になり得ます。
ただし、退職金は、将来において支給が決定される上、その金額を一定額として表示することが困難ですので、分与の方法には、いろいろな考え方があります。公正証書の作成を依頼する際に、当事者同士でよく話し合った上で、公証人に相談するのがよいでしょう。
離婚時年金分割制度
Q21. 離婚時年金分割制度とは、どういうものですか?
平成19年4月1日から、厚生年金等について離婚時に婚姻期間中の保険料納付(年金受給権)の記録分割をする制度が導入されました。
この制度は、離婚する夫婦の年金受給の格差を是正するため、厚生年金の報酬比例部分(老齢基礎年金に上乗せされる老齢厚生年金)の年金額の基礎となる「標準報酬」について、夫婦であった者の合意(合意ができないときは裁判)によって分割割合(請求すべき按分割合)を決め、夫婦であった者の一方の請求により、厚生労働大臣が標準報酬の決定を行う制度です。これを「合意分割制度」といいます。
この制度の適用を受けるのは、平成19年4月1日以後に離婚した場合であり、婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録が分割されます。また、請求すべき分割割合は、法律で一定の範囲(上限は50%)に限られていますので、最寄りの年金事務所に相談するとよいでしょう。この分割割合の合意は、公正証書によるか、または当事者の合意書に公証人の認証を受けることが必要とされていましたが、平成20年4月1日からは、公証人の認証を受けなくても、当事者双方がそろって(代理人でも可)合意書を年金事務所に直接提出する方法でもよいことになりました。
また、平成20年4月1日から、いわゆる第3号被保険者期間についての厚生年金の分割制度が始まりました。これを「3号分割制度」といいます。この制度の適用を受けるのは、平成20年4月1日以後に離婚した場合であり、婚姻期間のうち、平成20年4月1日以後の第3号被保険者期間中の厚生年金の保険料納付記録が分割されます。分割の割合は2分の1、すなわち50%と一律に決められています。
したがって、平成20年3月31日までの分については、合意分割制度によることになります。もっとも、平成20年4月1日以降の分も含めて婚姻期間全体について合意分割を行うこともできます。その場合、平成20年4月1日以降の分につき2分の1であるとみなして全体の分割割合を算定することになります。
通知義務
Q22. 離婚後も双方の住所や勤務先の変更等を通知し合う必要があるのですか?
養育費等の支払や、子との面会交流、双方の協議等をスムーズに行うためには、双方の住所、勤務先等を知っておく必要があります。
しかし、夫婦間でDV等のおそれのあるケースや、住所、勤務先等を相手方に知られたくない場合には、その希望を告げてどのような内容を公正証書に記載するか、公証人に相談するのがよいでしょう。
清算条項
Q23. 清算条項とは、何ですか?
清算条項とは、当事者間に、公正証書に記載した権利・義務関係のほかには、何らの債権債務がない旨を当事者双方が確認する条項です。
強制執行認諾
Q24. 養育費、財産分与、慰謝料の支払を確保する方法として、公正証書の利用があげられると聞きましたが、どういうことですか?
公正証書に、①一定額の金銭の支払についての合意と、②債務者が金銭の支払をしないときは強制執行されてもかまわないと受諾した旨の定めを記載すると、万が一、支払が履行されない場合でも、裁判手続を経ることなく強制執行が可能となります。そこで、養育費や離婚給付の支払を確実に確保する方法として、このような公正証書の効力を活用するというものです。
なお、法務省民事局の作成動画『養育費バーチャルガイダンス2021』は、こちらです。
Q25. 養育費については、民事執行法により保護が手厚くされていると聞きましたが、どのような点ですか?
養育費の支払の一部が不履行となった場合は、期限がきていない将来の分についても強制執行をすることができます。また、差押できる債権の範囲も、通常の場合は給料等の4分の1までしか認められないのと異なり、養育費の場合は給料等の2分の1まで認められており、強制執行がし易くなっています(民事執行法151条の2、152条3項)。
また、債務者の給料を差し押さえるためには債務者の勤務先を調べること、債務者の預貯金を差し押さえるためには債務者がどの金融機関に口座を持っているかなどを調べる必要がありますが、養育費の支払を受けられない人(債権者)は、その申立てにより、地方裁判所が、債務者を呼び出し、債務者に対してどのような財産を持っているか、誰から給料が支払われているかなどについて述べさせる手続(財産開示手続)や、金融機関等の第三者に対し、債務者の預貯金に関する情報(取扱支店名、預貯金の種別、口座番号、残高)等の提供を命じる制度(第三者からの情報取得手続)を利用することができます(民事執行法196条以下)。
債務者の財産開示手続、第三者からの情報取得手続を申し立てるための条件、申立書の書式や作成方法、必要な費用や書類については、東京地方裁判所や大阪地方裁判所等のホームページが参考になります。
詳しくは、申立先の地方裁判所(債務者の住所地を管轄する地方裁判所)にお問い合わせください。
Q26. 金銭以外の財産の給付の約束については、どうなるのですか?
金銭以外の財産の給付については、公正証書によって強制執行することはできません。しかし、万が一、履行がなされないときは、訴訟を起こせば、容易に勝訴することができるでしょう。
間接強制
Q27. 養育費等について間接強制ができるそうですが、どういうことですか?
養育費等の扶養義務等に係る金銭債務については、先ほど述べた強制執行(直接強制)の方法によるほか、間接強制の方法によっても行うことができます(民事執行法167条の15第1項本文)。
間接強制とは、債務者が債務の履行をしない場合に、債権者の申立てにより、裁判所が債務者に対して一定の金銭の支払を命ずることによって債務者に心理的強制を与え、債務者の自発的な債務の履行を促す制度です。
具体的には、執行裁判所が、債権者の申立てにより、遅延の期間に応じ、または相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の金額を債権者に支払うべき旨を命ずる方法によることになります(同法172条1項)。